この記事のPART1では「経営者育成」業界ってどこだ?の本当に「お触り」の部分だけ述べました。
各業界の「経営」的な切り口で纏めたものをは改めて以下の表になります。今回PART2はそれぞれの要素をより深掘りしていきます。
業界 |
カバー領域 |
「経営」への影響 |
経営人材育成の現場としてのメリット |
経営人材育成面デメリット |
転職先での職掌 |
IB |
M&Aや資金調達 |
M&Aという限られた領域 |
M&Aを成長戦略のツールとして使いこなせるようになる |
飽くまでM&A+CFO領域スペシャリスト |
CFO部門特化 |
戦コン |
事業戦略 |
事業戦略領域 (カバーエリアは広い) |
「考える」「伝える」が洗練、応用度が高い |
「財務3表」が使いこなせない |
フレキシブル |
商社 |
M&A→企業運営領域全て |
経営「周り」に幅広く関与 |
経営に「近い」、また「実践の場」がある |
反復回数が少ない。自己決定裁量が少ない |
フレキシブル |
スタートアップ |
業種による |
業種・ポジションによる |
環境が未整備であり「現場感」「不確実性」を乗り越えながらの成長 |
「安心して一つのことに集中できる成長出来る環境」ではない |
経験による |
目次-Table of Contents
「経営」への影響について
ここでいう「経営への影響」とは、IB、戦コン、商社、スタートアップというそれぞれの業種が行っているタスク・アクティビティがどれだけ自社ないしクライアントの経営に関わっているか、そのインパクトと深さ・幅広さについて考えていきます。
IBは2つ、戦コンは1つ。だけど戦コンの方が色々考えるものってなーんだ?
訳の分からないなぞなぞチックな見出しでSEO的にはマイナスですが、そんなのお構いなし!(笑)答えは「キャッシュフロー」です。
IBは基本M&Aや資金調達特化ですので、基本はクライアント企業と対象会社のBS=「財務キャッシュフロー」と「投資キャッシュフロー」の2つの領域を動かすのが勝負です。M&Aの際に対象企業のPL≒「営業キャッシュフロー」の分析はしますが、多くの会社にとっての稼ぎの主軸となる「営業キャッシュフロー」に影響を与えるアドバイスは微少です。つまり、領域限定型です。
戦コンは一方で、「営業キャッシュフロー」に対してのアプローチが主です。戦コンに関しては後程の「アメーバ」の所で述べます。
IBには「型」と「共通言語」が多い
IBが2つのキャッシュフローを管轄し、戦コンが1つなら、IBの方がカバー領域が広いのでは?と思われる方もいるかと思います。しかし、M&Aや資金調達は決められた「型」というのが凡そありますし、「財務諸表」というものは業界、国等に跨って多少の違いはあれ度「共通言語」として機能するものです。また、投資判断の際に用いられる「財務モデリング」(主にエクセルを用いて、当該の投資が十分なリターンを生むかを分析する表)も、少々複雑ですが「型」があるハードスキルです。金融商品の中で高度な仕組み証券・仕組み債を活用することもあるかもしれませんが、それとてやはり「型」があります。つまり、IBは決まった情報の枠組みの中での情報処理中心の勝負ということになり、カバー領域は限られています。蛇足ですが、その意味では今回取り上げた業種の中で一番AI代替可能な職種かと思います。ですが、まだAI等が未発達であった2000年代においてIBが頭がシャープな学歴優秀者と相思相愛であったのは、ある程度「答えや型のある」ものを取り扱う業界であった為と思われます。
戦コンはより「アメーバ」
一方、戦コンは「営業キャッシュフロー」に影響する領域に対してのアドバイスを主にやります。つまりクライアント企業の将来的な事業ポジショニングを考えたり、既存事業の中でのボトルネックを発見し、その解決方法と解決した際のインパクトを分析したり、などです。しかし、先程「財務諸表」は「共通言語」と言いましたが、そういう「共通言語」というのは戦コンの扱う領域では無かったりします。例えば「自動車業界」と「保険業界」、どちらも業績や現在の資産-調達ポジションは最終的に「財務諸表」に落とし込めますが、それぞれのお金の稼ぎ方、競争環境、今後のテクノロジーの進化の在り方など「最終的に『財務諸表』に落とし込まれるものを作り上げるストーリー」に共通点はあれどそれぞれに異なります。なぜかというと、同じ業界であったとしてもリソース規模と配分、カルチャーとコンピテンシーが違うので。これらキーワード:「リソース配分」「カルチャー」「コンピテンシー」やそれに附随するイシューが戦コンが主に対象とするものです。
自由度が高いと言えば聞こえがいいですが、IBの様に頼るべき絶対的な枠組みが無く、正解があるとも限らない為、顧客からの情報と外部環境の情報を基にしながら「仮説設定」を基に進めます。別の言葉で言うと、IBの仕事はClosed Question=Yes/Noといった限られた選択肢のうちの一つで回答することが出来る質問への回答の連鎖・連続が多くを占める一方、戦コンはOpen Question=自分でストーリー、構成を構築する必要があるものの連鎖・連続です。それが故に戦コンはストーリーの前提となる分析->ストーリーの構築・可視化->クライアントに伝える・理解を促すことが必要であるため、「深く考える事」「資料作り」「伝え方」をこっぴどく鍛錬されます。「知る・覚える」と「考える」の2極スペクトラム
でプロットすると、戦コンは大きく「考える」側、「知っている」ことはある程度の「足し」みたいなものです(少なくともシニアになる前はこの通りかと思います)。
IBのところで「AI代替性が高いと思われる」と申し上げたのは、Yes/Noないし特定の数値や回答の選択肢で回答するClosed Questionが主であるからという理由が大きいです。一方、Open Question領域はまだAIに大きく代替されていないので、まだAI代替性が低いと思います(今のところは)。また、戦コンのコンピテンシーの「深く考える事」「資料作り」「伝え方」という基礎技術は実際に「経営現場」に降り立った際に基礎技術・基本動作として大きくメリットになる部分です。
一方で、戦コンは「企業運営の枠組み」への関与というのは殆どありません。またぶっちゃけ、戦コンはタスクの中で財務諸表の分析及び作成は殆どないです。自分たちの作る提案資料のなかでPL(損益計算)へのインパクトは資料として語りますが、BS(貸借対象=会社の資産とその調達方法)に関するインパクトは殆ど語りませんし、それらに加えてキャッシュフローも含め「財務諸表」を経年的なストーリーを持って語れる戦コンの人はあまり多くありません。
戦コン卒業時点では、「いろんなものをきちんと立ち止まって考える」「考えたストーリーを資料・話し方でどう伝えるかに長けている」という能力は秀でていますが、「企業運営」「財務諸表(的な数字)と事業の現場のライブ感を持った連関性イメージ確立」という部分に関してはその後の経験で身に付けて行かないといけない、というのが戦コンの人たちだと思います。
商社は「現場」
さてさて、わが愛すべき(?)商社ですが、実は今回取り上げる業種の中で最も「経営に近いところで幅広く」立ち回れるのは事実で、実際に企業運営(経営ではない)に関する枠組みを勉強することは出来るかと思います。IB, 戦コン、商社の3つの業界での企業経営的な枠組みへの馴染み感で言えば商社>IB>>>>戦コンの順です。IBは会社法及び金融商品取引法が彼らのビジネスの大きな枠組みですので、それら2つだけはかなり意識します。一方、戦コンは3つの中では一番企業運営的な枠組みと接点がありません。戦コン用語の「ゼロベース」というのはやはりそうした枠組みをそこまで考えなくていい業種だから発展したジャーゴン(業界用語)のかもしれません。戦コンの仕事を新卒から10年やってきたとしても「取締役会」「株主総会」といった意思決定会議に参加することすら稀だと思います。
一方商社の若手はそうした会議体の議事録を取らされたりします。私も現地事業会社に出向していた際は会社法に基づいた株主総会・取締役会決議事項をチェックしたり、会社の中の最高意思決定機関である「株主総会」の議事録を作ったりといった「企業運営」の一部を担っていました。「商社マンは経営できない」というのが私の主張ではあるのですが、「経営に近いところに居る」のも大きな事実です。
商社ご卒業の時点での商社マンは「企業運営実務が判る」「財務諸表もM&Aもある程度分かる」というハードスキルメリットがある一方、「本社・上層部の方を見て仕事をしている」ので戦コンの人の様な「考えるスキル」は弱めかと思います。あと、これは傍流の点ですが、商社の投資の仕事として「海外」が多い為「日本の枠組みが判らない」というデメリットの一方で、「海外のハードシップ」を経験できるというメリットがあります。実は商社マンの赴任先で人気なのはNY/ロンドン/シンガポールみたいな英語が通じて都市インフラが整っている所にある「地域ヘッドクォーター」ではありません(あ、奥様方には人気だと思います)。リスクもあり、伸びしろもある、というビジネス最前線の事業会社が商社の営業BU(ビジネスユニット)所属者の赴任先として人気です。ぶっちゃけ油田も鉱山も、穀物畑も、ソーラーパネルもそういう大都市にはありませんから。そういう意味では商社マンにも未だにベンチャースピリットはあるのでしょうかね。
余談ですが、商社の今後のあり姿は「経営者集団化」
「経営に近いところに居る」のに経営できない状態を変えていくのが商社の今後数年のトランスフォームの仕方だと思っています。つまり、商社の「経営者集団化」ですね。
その為には2+1コの商社の変革プロセスを経る必要があると思います。
まず第一に「本社の上層部に左右されない経営者としての判断への権限移譲」=「本社を見ながら経営するのはやめましょう」ということですね。現場に居る人を経営者として育てるためには、「その上に経営者を置かない」こと、つまり「経営者として意思決定と権限を持たせる」事であると言えます。現状は真逆の状態ですが、これについては私の身の上話で書いた通りです。
第二に、第一のポイントと絡み合う要素ですが、「失敗の許容」です。ベンチャーキャピタル的に「投資にある程度の失敗案件を織り込むこと」でしょう。商社は今も時折「外れ投資案件」というのはあります。「当たり投資だと思っていた→経営が出来なくてMess up」というものですが、こうしたご失敗案件を10に1つなのか2つなのか織り込んで、成長の糧としながら経営していく必要があります。
また、3つ目のポイント、これは私も正解なのか定かではないので「2+1」の「1」の部分なのですが、「専門家化」です。組織的にPrivate Equity Firmの様に「投資スペシャリスト」と「経営(バリューアップ)スペシャリスト」の2つの部門に分け、それぞれで専門性を高める必要があるかもしれません。ただ、世界的に有名なメガPEファームでもこの「経営(バリューアップ)スペシャリスト」という部門がうまく機能しているかどうかあまり定かではないところがあり、この「専門家化」が「正しき」道なのかはもうちょっと私の中でも精査が必要です。
この「専門家化組織」というものに関連した内容に就いて、次章「人材育成の場」の部分でこれに関連した内容に触れます。
スタートアップは?
あ、「スタートアップに触れてないじゃん!」と思う人もいるかと思います。はい、スタートアップは業界、ステージによってなかなか一概に言いにくいです。新卒・新入社員を受け入れる事が出来るようになるのはシリーズA~Bくらいのステージ以降だと思いますが、そのくらいのステージでも会社としての規模や、Reporting Layerの数(一番の「平社員」から「社長」までの中間管理職の合計)も一概に言えません。そもそも、スタートアップって業界ではないですから(爆)。コンサルティングやっているスタートアップであれば戦コンに似ていたり、会計系のSAASをやっているスタートアップであればIBの領域に似たような「型」が比較的多くあるかもしれません。また、「スタートアップこそ経営に近いところに居れるのでは?」と思う方がいるかもしれませんが、それもマチマチ。スタートアップはCxO(最高ナンチャラ責任者と言って会社のトップレイヤーのポストの人たち)が株主=共同創業者で、その人たちで経営を握り若人がシャカリキに活躍しても経営の近くには行けない、ということもありますので本当に一概には言えません。そして1社目で通用したことが2社目で通用しないこともままあります。ただ、上述3業界とスタートアップが大きく異なるのは「インフラが整備されていなくて環境が不安定」だということです。IBの人たちの様に「その道を究める」ことにならなくても、「何とか生きていく」ことが出来るようになる可能性は高いです。一方、経営者として充実する為には「スタートアップ的な『行き当たりばったり』の終焉・それからの脱皮」というのが課題になってくるのかと思います。
人材育成現場としてのメリット・デメリット
人材育成現場としてのメリット及びデメリットに関しては上の表の通りです。
表で書いていることに関してはそのままですので、あまり説明せずともいいかと思います。
一方、仕事のNature(性質)をある種の切り口で以下の様な図を作ってみました。プロッティングの軸は縦軸が仕事をする上での環境が「安定」しているか、「不安定」か、制度やサポート組織等の有無による「仕事のしやすさ」を表します。横軸は「型」/「アメーバ」。これも前に触れましたが、「絶対解がある(ある程度の範囲内で収まる)ものを思考・検討の対象とするか」それとも「絶対解が無いもの」を対象とするか、です。
丸のサイズは「考える事の多さ・深さ」から導かれる、「考える量」を指していて、実線は自ら事業を営んでいる業種、点線はPART1で述べた「プロフェッショナルファーム」として、クライアントにアドバイスをすることを生業とする業種です。
「安定」「不安定」については前の記事(PART 1)でお話させて頂いたので、ここでは割愛します。
再び、「型」と「アメーバ」
上の図を見て、「むむむっ!」と思った人もいるかもしれません。「絶対解が一番多いのは事業の成長・成功に対して何に着手したらよいか未知数である『スタートアップ』なのでは?」と。確かに直感的にそう思いやすいです。ですが、きちんと元の定義に戻って頂きたいのですが、この記事は「経営者育成業種」「経営者登竜門業種」を検討しています。つまり、「スタートアップ」といった際、「将来の経営者候補と見做せる人」、つまり「スタートアップの経営者」ではなく、「スタートアップにジョインした(基本)若手層」となります。そして、「スタートアップの若手」は経営のトップレイヤーの仕事ではなく、考えること(Thinking)もするが、動くこと(Doing)もします。
また、ThinkingとDoingの点に関連すると、スタートアップでは「Doing」が膨大にある。その理由は既に申し上げた2点のことなのですが、「不安定」な故に「安定業種」では他の部署がやってくれることを自分でこなさなければいけない。また、「将来が未知数」が故に色々手を打たなければいけない、というのがあります。DoingのほとんどはIBのそれと毛色が違えど「型」のある、「いったん覚えて、やる時間を確保すれば概ね誰でも同じことが出来る事」です。それが故に「スタートアップ」は「アメーバ」-「型」のスペクトラムでは「アメーバ」に振れ過ぎない立ち位置になります。
そして、「Doing」が膨大にあると、「Thinking」の時間が侵食されて時間も取れず、Qualityも下がります。その為、平均値として考えると「考える事が多い業種」と言えなくなります。それが故にスタートアップの丸の大きさはこの程度になります。
「商社」もスタートアップと凡そ「スタートアップ」と同じ大きさの丸で、横軸の位置はほぼ同じですが、スタートアップより「事業の未知数度」は低い一方で、事業が「高度化」します。スタートアップとはこの2点が違いますが、これらが引っ張り合いバランスを保って凡そ同じかと。
「戦コン」は上述の文に倣って対比すると「いったん覚えて、やる時間を確保したとしても、誰もが同じ結論や道筋をたどるとは限らない事」を対象にしています。これが「型」への対比として「アメーバ」の点です。それが故、「考える総量」は多い。プロフェッショナルファームとしてコンサルタントのクオリティは担保していますし、「おおよその落ち着きどころ」みたいなのはありますが、対象とする事象のNatureとしてその通りかと思います。
また、「戦コン」は「安定」、つまり制度やサポート部署がコンサルタントが「アメーバ的な検討対象に集中できるよう」お膳立てされています。つまり、アメーバという対象が考えることを要求するというほか、環境が考えることに集中できる様に作られているが故に丸が大きいと言えます。
スペシャリティとは?:「要求される視点」と「繰り返す」こと
PART 1初出の表で商社のデメリットとして「反復回数が少ない」と書いておりました。私は商社時代に「商売(売って・買っての卸売)」「事業投資」「事業管理」の商社の営業部門がやる3大支柱の全てをやりました。その中で、一例を出すと本社の取締役会で決裁される規模のM&Aに本社の人間として関わったのは1年に1回のペースです。これでも多めの方だと思います。一方、図表内で点線の枠の丸の「プロフェッショナルファーム」=IB,戦コンの例を出しますと、戦コンの人は短くて8~10週間、長くて12週とか16週スパンでクライアントワーク(客先常駐し分析・レポート纏め・最終プレゼンに至る)をします。IBの人たちも短ければ3か月サイクルくらいで1度のM&Aに関わっていると思います。IBはインタレストの異なる2社(もしくはそれ以上)の「結婚」なので、ずるずると長引くケース、うまく「結婚に至らない」ケースもあるので、長さはまちまちなのですが・・・。そして、IBや戦コンは商社に比べて「Doing」が少なくコアワークに集中できる「安定度がより高い」環境にあります。つまり、同じことを「繰り返すこと」、よりそれっぽくいうと「回転率」が違い、それが故に「スペシャリティ」として個人のスキル、血肉になりやすいというのがあります。私も商社を卒業したさい、「スペシャリティ感が自分はないな」と思っていたことを思い出します。その後、戦コンという「Thinkingの鍛錬」が出来る業種に行ったことが上手く補完になった気がします。
「馴染める」「馴染めない」はある程度仕方がない事
一括りに言ってしまうと、「高学歴」で「仕事で成果を出してきた人」というのは、「次の職場、また別の職場、どこでも仕事の成果が出せる人」であることを望んでしまいます。しかし、確かにそれが出来たら非常にかっこよくはあるし、それが上手くいかなかったりしたら「仕事人として失敗」なんて考えてしまうかもしれません。でも、そうではないと思うのです。転職の際に「業界」「ファンクション」「国」「言語」の2つ以上を変えるな、などとはよく言われることです。ですが特に、語学なんかは後天的に身につけようとしてもなかなかネイティブレベルまでならないのは私も経験上よく分かってますし、「後天的に身に付けた語学で交渉相手をぎゃふんと言わせるくらいの素晴らしいディールを英語でもフランス語でも中国語でもかまし、交渉だけでなく企業経営もM&Aもスタートアップでも出来る」なんて方はチョー稀ですし、多分このブログはご覧になって無いかと(笑)
カーレースの例で例えると、フラットなサーキットの路面でスピードを出すのに特化できるF1カーがある一方、でっこぼっこの山道を土煙巻き上げながら時にはジャンプしたりドリフトしながら走るラリーカーもあります。F1カーはラリーの山道ではすぐにエンストすると思いますし、ラリーカーはサーキットで走れるでしょうがF1カー程早くはないでしょう。商社の時も言いましたが、「餅は餅屋」です。私は商社、戦コン、M&Aアドバイザー、スタートアップといずれも経験ありますし、海外の経験もありますが、私の専門は飽くまで「経営」で、これが私が最も最高速でブンブン走れる「ファンクション」です。それ以外のものは得意じゃないか、少なくとも自分よりもっと専門性を持った人はいると思います。
もしも生まれ変わったら?「経営者になる」視点であれば「戦コン」を軸にします。
以前も申しあげたとおり、私が経営者を志し始めたのは商社時代でした、つまりすでにキャリアをちょっと走り出し始めてから経営者になりたいと思ったわけです。そんな私ですが、今経営者になって「経営者たること」の一番血肉になっている過去経験は「戦コン」的なコンピテンシーだったと思います。実際には「経営者として活動する」ことを通じて「血肉」になっていることが一番多い・またこれからも継続していくのでより多くなっていくのですが、本日「経営者登竜門」業界の話をしているので「経営者登竜門」は「経営者として経験することです」という訳の分からない論理構造になってしまいますので除外(笑)。
「繰り返し」をしたことで「個人カルチャー」になっているものの中で一番経営に役立った経験は「Thinking」という戦コンで培ったスキルです。この「Thinking」という言葉、戦コンJargon(業界用語)ですがつまりは言葉そのままの通り考える事です。戦コンではこれをこっぴどく鍛えられます。戦コンで「Whyを繰り返せ!」とよく言われるのは業界外の人も良くお聞きする話かと思いますが、クライアントの現状について「なんでそうなるっているんだっけ?」と考えたり、自分の提案ストーリーを構築するために「どういう風な未来像とその道のりがクラインアント企業のコンピテンシーとリソース配分を考えた上で妥当か?」を考えたりと、とにかく「考える」ことの量が他業界に比べて多い為です。
読者の皆様の中には「どこの業界出身でも経営者という責任のあるポジションになったら『考える』ことはやらざるを得ないのでは?」という疑問が出てくると思います。その通りなのですが、「考える」という行為を仕事を通じて集中的に求められ、それが「個人カルチャー」にすることが出来るのは業界としては「戦コン」だと思います。経営者も忙しい職業です。経営者になった後、忙しすぎて新たなコンピテンシーを自身に加えることが出来ないことも多いですし、この経営の方針や会社の将来を「考える」という行為自体、実は「重要」でありつつも「緊急性は低い」事だったりします。経営者の執務を通じて「重要」且つ「緊急性が高い」ことはやらざるを得ない、自然に身に付いていく事です。簡単に言うと、株主総会決議事項やM&Aのメソッドなどはその必要性が出た際に必要に駆られて学ぶことが出来ます。一方「考える」ことの様に、「重要」で「緊急性が低い」ことは経営者になってから新たなコンピテンシーとして身に付けにくい特性があります。ですが、実際は「重要」で「緊急性が低い」ものが「会社の将来の成長や競争力」を決めます。「重要」で「緊急度が高い」ものは1年前なり、3年前なりに考えた「会社の将来の競争力を培うための戦略」を土台としたうえでの「業務的判断」にすぎません(それでも重要ではありますが)。きちんと考えられた土台は会社の方向性を成功・成長に導く確率をあげますし、きちんとした事業プラットフォームが出来るので、経営者及び社員の業務判断も楽にしてくれます。
【「重要性が高く・緊急な事」、「重要性が高いが緊急でない事」の例】
「重要性が高く・緊急な事」・・・「取引先や賃金支払いのため支払期限までの資金の工面」「作成期限までに(工場・店舗などの)シフトを策定し、各位に通達すること」など。
「重要性が高いが緊急でない事」・・・「5年後に自社の業界内の優位性を保つためのポジショニング戦略とそのロードマップ」「営業メンバーが効率よく最大の成果を出せる様な組織・KPI・会議体の考案」など。
「重要性が高く・緊急な事」は性質上「行き当たりばったり」且つ「期限があったり、生存(会社の存続)への必需性がある為『誰が経営者であってもやらざるを得ない』」様な仕事です。換言すれば「追われる仕事」です。ちょっと先に触れましたが「スタートアップ」はこれに忙殺されます。
一方、「重要性が高いが緊急でない事」は性質上「後回しにしやすい」仕事です。今日「5年後に向けた戦略」を考えなくとも、明日考えればいいのはその通りです。可及的速やかに対応する必要が無い為、ずるずると気が付けば時が過ぎ去っていた、なんてことも。そして、「重要性が高く・緊急な事」にずっと追われてきた人がようやく手が空くようになって「『重要性が高いが緊急でないこと』をこれまでおろそかにしていた、課題は山積みなのでこれからはそっちにきちんと時間を割くようにしなければ‼」と思い始めたとしましょう。
ですが、気づいたところでこれまでに蓄えた「考える力=思考体力」がある人であればきちんとギアチェンジできますが、それを培ってこなかった人は「思考体力を積み上げる」というコンピテンシー育成に自ら勤しむか、もしくは「勘」レベルの考えを「思考」と捉えて「なんちゃって経営」をやってしまうかの2択です。ぶっちゃけ、経営者ポジションの人の中でも後者に流れてしまう人が圧倒的に多いです。私が過去「中の人」として見てきた世間的に有名な経営者も「勘」レベルの経営をしている人が複数名いらっしゃいました。これは私が定義することの「経営者ポジション」に居るが、「経営者属性」ではない人、ということになります。
「経営者になった後に考えるコンピテンシー」を育てられない理由
これは、簡単に言うと「偉くなっちゃった」からです。「重要性が高く・緊急な事」をこなしまくって、何とか会社が安定してきた、そして時間的にも会社の業績にもある程度余裕が出てきた、という状態の経営者が何を求め始めるか?①IPOや報酬などの会社を通じてのリターン、②経営者同士の繋がり、③業界団体での活動 などなど、「偉い人扱いしてくれる」様な「チヤホヤされる場」に行きたくなります。この①~③を求めない人でも「勘」に頼ったトップ営業みたいな訳分からないことをしたり。このステージで「自分はまだまだこれから。会社も安定し始めたばかりで、これから組織と人材をより効率的に育てるために自分はもっと考える、というコンピテンシーを付けなければ」というモブキャラ精神、問題意識のもと、自分でその能力を身につけられる人は稀有です。
そもそも、「戦コン」の人たちの「考える力」というのは、ジュニア時代に、シニアメンバー(上長)とクライアントからの高い要求、強いプレッシャーのもと、「それが出来ないとプロフェッショナルとして生存できない」という状況を乗り越えて身に付き、磨かれていくものです。かくゆう私も戦コン時代に「心地いい」と感じたことは仕事の場面では一瞬たりとありませんでした。業績が安定してきた会社の経営者ポジションにいる人に対して、このプレッシャーをかける存在はありませんし、それらの人たちが行ってきたのは「Thinking」ではなく「Doing」です。「生か死か」で磨かれる「戦コン」の「考える力」に「いったん偉くなってしまった人」の「金持ちの道楽」が叶う訳がありません。
例えて言うなら、経営者にとっての考えるという行為を「大人になってから自転車に乗る行為」だとしましょう。「戦コン」の人たちは「子供の頃補助輪なしで自転車を乗りこなすことを訓練された人」、その他の業界の人たちは「子供の頃補助輪付きでしか自転車に乗っていなかった人」です。経営者=大人になった後、戦コン経験者は「補助輪なしにス~イスイ♬」である一方で、他の業界出身の人は「えーと、補助輪付けたままか外すべきか・・・」から始まります。そして、こんな迷い事しているうちに「考える力を付ける事」が「著しく優先順位の低い事」に追いやられる始末です。
この「考える事=良く・深く考える事」は「経営者、また経営する企業の成功・成長の絶対唯一の解である」とは言えませんが、「成功・成長の確率を上げてくれる基礎技術」だと思います。もちろん人脈がHard Timeを救ってくれたり、ラッキーパンチもあるでしょう。ですが、「確率を上げるスキル」としては絶対解だと思います。
終わりに:まとめきれないっ!
え~と、いつも通りで全く纏めきれないわけですが(笑)、前回のPART1, 今回のPART2で「経営者育成業界は?」という問いに対する考察を行ってきました。「考える事」は身を助ける、と思っている私は「戦コン」経験が自分の経営者としての基礎体力のうちの多くを作ったと考えている為、その風に書きましたが、そうではないご意見も多数だとは思います。「あわわゎっ、僕どの業界も経験してないよっ!」という方もいると思います。Don’t Worry, 今回は「敢えて考察対象を4つに絞った中での」、「主観的な」意見です。また、この記事を読んで「考える力は重要だ、身につけたい」と思うに至った方がいたとすれば(それは記事執筆者として冥利で、悪魔は笛を吹いて踊り出したりしてしまいます♪)、考える力を身に付ける「個人戦略とロードマップ、KPI」を策定し、継続すればいいだけのことです。「今自分が持っているリソースとやらねばいけない事象の中でやり繰りする」のがマネジメントですから。ではでは。