さんざんこれまで「商社」と「商社マン」の存在を「経営が出来ない」などとディスりに近いコメントを残してきました。しかし、それは愛の鞭(無知?)を含んでいる言葉で、「商社は経営者養成セクター」のうちの一つでは無いかと思っています。
それは、「事業投資をしてその事業管理をする」のが商社の事業の大きな柱であり、つまり「投資」の部分はPrivate Equity Fundに似た部分があり、一方「事業管理」は経営に「近い」ところでやっています。という風にやはり「経営に近い」ところにいるのは事実なのです。そこで、今回は「外資金融の投資銀行部門(以下投資銀行=Investment Bankingを略して「IB」)、外資中心の戦略コンサルティング会社(以下「戦コン」)と、総合商社、スタートアップを「経営者養成セクター」という切り口で比較をしてみましょう。
*前回までと同様ですが、「商社」と申し上げた時に「商品売買(伝統的な「商」社のビジネス)」ではなく、「事業投資(投資及び投資先のValue up・シナジー益の取り込み)」をメインに書いています。
目次-Table of Contents
「経営者登竜門」業界候補4つ:IB,戦コン,商社,スタートアップ
なんでIB, 戦コン、商社、スタートアップという4つのカテゴリーの比較かというと、2022年現在で40歳前後の筆者が2000年代中~後半の就活生時代に民間企業の入社偏差値をセクター順にすると①IB、 ②戦コン、③総合商社 の順でした。民間では当時RるーとやD通、H堂なども偏差値高かったと思いますが、「業界」としてきちんと「ひと塊で優秀な企業群」かどうかという観点では微妙だったかもしれないという偏った見方と、何より私があんまり知見が無い業界ですのでゴニョニョゴニョ・・・。ここで言及していない業界の皆様、他意は御座いません。悪魔こと筆者が知見が無いだけだと一蹴しておいてください。
「入社偏差値」などと述べましたが、もちろん人によって「志向」や「志望業界」というものがあります。それなので一概には言えないのですが、各業界の「新入社員時点での素材・能力の平均点」もやはりIB,戦コン、商社と続くこの順だったかと思います。当時この順番であったのも納得ですし、2020年前後では戦コンとIBの順番が入れ替わってきており、それに加えて新人の時からベンチャーに挑戦する方々がいるのもそれはそれで合点が行きます。というわけで、これらの「IB]「戦コン」「商社」「スタートアップ」4業種を比較してみようと思います。
おぉっと、ここにすべてを経験している「悪魔」がいるぞ!
悪魔こと筆者は商社の後に転職した先は戦コンでしたので、これで4つのうち2業種制覇。また外資系メガ金融機関のIB部門に所属したことはないのですが、過去数年間自身でM&Aアドバイザリー業務も経験しており、「同業者」として彼らを見て参りました。また、事業会社等にIB卒業生を見てきており、それぞれのキャリアパスとコンピテンシーについてある程度詳しいかと思います。そして、スタートアップもHands-onで経営陣の一角を占めていたこともありましてそちらもある程度肌感覚はあります。つまり、今回比較する4業種に関しての知見は割とあると思います。ぶっちゃけ「会社は中から見ないと判らない、仕事は一緒にしてみないと判らない」というのはあると思います。ですので、これら4業界で唯一中に入ったことが無いIBに関してはぶっちゃけ私の知見・知覚レベルが低めかもしれません。
因みに、IBや戦コンは「プロフェッショナルファーム」と言われます。それは何かというと、「顧客がいて、主体者はその顧客」で「それらの顧客に対して『M&Aアドバイス』なり、『戦略アドバイス』をする」=専門スキルを売ることでお金を稼ぐ会社の事です。かっこよく言うと「M&Aのプロ」、「戦略分析・立案のプロ」な訳ですが、逆に非常に微妙な言い方をすると「結局は実行するのはクライアント」です。
一方、商社は逆で、投資も事業管理も「自らが主体者」です。逆に投資の時に手が足りない場合はIBか、4大会計事務所系(Financial Advisory Service=FASと略します)の中のM&Aアドバイザリー部門といった「プロフェッショナルファーム」を起用する顧客側であったりします。最近では戦コンも時折起用する様になってきました。「主体者」と言えば聞こえがいいですが、一方で「スペシャリティ感」に欠けるデメリットがあります。まあ、それは置いといて見ていきましょう。
各業界の特徴を「経営」視点で纏めてみました。
【各業界の「経営」要素纏め】
業界 |
カバー領域 |
「経営」への影響 |
経営人材育成の現場としてのメリット |
経営人材育成面デメリット |
転職先での職掌 |
IB |
M&Aや資金調達 |
M&Aという限られた領域 |
M&Aをツールとして使いこなせるようになる |
飽くまでM&A+CFO領域スペシャリスト |
CFO部門特化 |
戦コン |
事業戦略 |
事業戦略領域 (カバーエリアは広い) |
「考える」「伝える」が洗練、応用度が高い |
「財務3表」が使いこなせない |
フレキシブル |
商社 |
M&A→企業運営領域全て |
経営「周り」に幅広く関与 |
経営に「近い」、また「実践の場」がある |
反復回数が少ない。自己決定裁量が少ない |
フレキシブル |
スタートアップ |
業種による |
業種・ポジションによる |
環境が未整備であり「現場感」「不確実性」を乗り越えながらの成長 |
「安心して一つのことに集中できる成長出来る環境」ではない |
経験による |
「IB」「戦コン」「商社」にあって「スタートアップ」に無いもの
上記表の様に纏めてみました。まず、前提条件としてこの「IB」「戦コン」「商社」の3業界共通で言えることですが、ある程度「仕事がやり易い環境」に居ます。商社の投資先含めて制度やインフラが整っていたり、また中の人たちの「知的レベル」もある程度一定に保たれている、つまり「知的インフラ」も整っていて、簡単に言えば「目の前のことに集中して、すくすく育てられる環境」にあります。対照的にスタートアップはそういうものがありません。スタートアップは「何でも自分でやる、自分で準備」みたいな環境であるのに対して、これらの業界はある程度「お膳立て」されています。大企業やプロフェッショナルファーム出身の方がスタートアップに馴染めない「あるある」の一つとして「お膳立て」されている環境に慣れ過ぎているから、というのがありますね。ちょっとこれについてはPART2で触れます。
まとめ:大局的な視点を披露したところでPART1は終わり
今回は「IB」「戦コン」「商社」「スタートアップ」を「経営者養成業界はどこだ!」という視点で見てきました。とはいえ、核心にはまだ全く触れておりません(笑)大局的な視点という「お触り」のみで御座いました。それでもまとめると「プロフェッショナルファーム」の「IB」「戦コン」は「整備された環境」で「自分たちのプロフェッショナル領域の事象」を扱い、「それを繰り返して個人カルチャーとして染み込ませる」という業界であるかと思います。一方でスタートアップは「環境は整備されていない」、「会社としての成長ステージや外部環境で起こることが多様」という真逆。商社は「整備された環境」という意味では「IB」「戦コン」に近く、一方で「いろいろな事が起こる現場がある」という意味では「スタートアップ」に近いかと思います。
すいません、今回も長々と書きそうになったので、一旦ここで終わります。♪
クライマックスにはまだ全然至っておりませんので、PART2をご期待しておいてください。